胸骨圧迫の練習方法 テンポ・深さ・戻し・腕の形を身につけるコツ
胸骨圧迫(心臓マッサージ)は、手順を知っているだけでは身につきにくく、くり返しの練習で体に覚えさせることが大切です。
練習では「テンポ」「深さ」「戻し」「腕の形」の4点を意識し、一度に全部ではなく一つずつ確かめるのが続けやすいやり方です。この記事では、職場や学校の訓練での進め方と、一人で練習するときの工夫を紹介します。
なぜ胸骨圧迫の練習が必要なのか
胸骨圧迫は、心肺蘇生の中心となる動作です。言葉で説明すると「胸の真ん中を、一定の速さで、しっかり押して、しっかり戻す」というシンプルなものですが、実際にやってみると思った以上に難しいと感じる人が多い動作でもあります。
知っていることと、できることは違う
救命講習を受けたことがあっても、時間がたつと「どのくらいの速さだったか」「腕はどう構えるのだったか」があいまいになりがちです。いざという場面では緊張もあり、頭で思い出しながら体を動かすのは簡単ではありません。だからこそ、普段から体で覚えておくことに意味があります。
自分ではずれに気づきにくい
押している本人は、自分のテンポが速すぎるのか遅すぎるのか、肘が曲がっていないかを正確に判断しにくいものです。疲れてくると、気づかないうちに押し方が浅くなったり、テンポが乱れたりすることもあります。練習の場で、指導者や仲間、道具の力を借りて「いまの押し方」を確かめることが、ずれに気づく近道です。
練習は救命講習を補うもの
自主練習や社内訓練は、救命講習の代わりではありません。正式な手順は講習で学び、そこで教わったことを忘れないように、日常的に練習で補うという位置づけで考えるとよいでしょう。
練習で意識する4つのポイント
胸骨圧迫の練習では、次の4つを意識すると、何を確かめればよいかがはっきりします。目安の数値は、日本蘇生協議会のJRC蘇生ガイドライン2025に基づくものです。
- テンポ
- 1分間に100〜120回が目安。速すぎず遅すぎず、一定のリズムで。
- 深さ
- 約5cmが目安。しっかり押し込む。
- 戻し(リコイル)
- 押した後は力を抜き、胸が元の高さまで戻るのを待つ。
- 腕の形
- 肘をまっすぐ伸ばし、肩が手の真上に来る姿勢で、体重をかけて垂直に押す。
テンポ:一定のリズムを保つ
テンポは、1分間に100〜120回が目安です。感覚だけに頼るとずれやすいため、練習ではメトロノームや一定のリズムの音に合わせて押してみると、適切な速さをつかみやすくなります。速く押そうとして浅くならないよう、テンポと深さを両立させることも意識しましょう。
深さ:しっかり押し込む
深さは約5cmが目安とされています。遠慮して浅くなってしまうことが少なくないため、練習の段階で「このくらい押す」という感覚をつかんでおくことが大切です。深さは目で見て判断しにくいので、救命講習では訓練用の人形などを使って確かめます。
戻し:押したら、しっかり力を抜く
押すことに意識が向くと、手に力が残ったまま次を押してしまい、胸が元の高さまで戻らないことがあります。押した後は胸が元の位置まで戻るように力を抜く、この「戻し」まで含めて1回の動作だと考えると意識しやすくなります。
腕の形:肘を伸ばし、肩を手の真上に
肘が曲がると腕の力だけで押すことになり、すぐに疲れてしまいます。肘をまっすぐ伸ばし、肩が手の真上に来るように構えると、上半身の体重を使って垂直に押しやすくなります。手を置く位置は胸の真ん中です。具体的な手の置き方は、救命講習で指導者に確認してください。
職場・学校の訓練での練習の進め方
防災訓練や社内研修の一環として胸骨圧迫の練習を取り入れる場合、限られた時間で多くの人が体験できるように工夫することがポイントです。
まず救命講習につなぐ
担当者がすべてを教えようとする必要はありません。消防署や日本赤十字社などの救命講習を受講する機会をつくり、正式な手順はそこで学んでもらうのが確実です。社内の訓練は、講習で学んだことを思い出し、くり返す場として位置づけると、内容の線引きもしやすくなります。
一回の練習で意識する点を絞る
テンポ、深さ、戻し、腕の形を一度に全部直そうとすると、かえって混乱しがちです。「今回はテンポ」「次は腕の形」と、回ごとにテーマを一つ決めると、短い時間でも手応えが残りやすくなります。
交代しながら、見る側も学ぶ
二人一組や少人数のグループで、押す人と見る人を交代しながら進めると、待ち時間も学びの時間になります。見る側は「肘が曲がっていないか」「テンポは一定か」など、確認する項目を事前に決めておくと声をかけやすくなります。
年に一度より、短くくり返す
覚えた感覚は時間とともに薄れていきます。年に一度の大きな訓練だけでなく、朝礼や会議の前後などに数分の練習をはさむなど、短い練習をくり返す機会をつくると、感覚を保ちやすくなります。
一人で練習するときの工夫
講習や訓練の合間に、一人で練習しておきたいという人もいるでしょう。自宅などで練習するときは、次の点に気をつけてください。
- 人の体では押さない。家族や友人の体で実際に押す練習は、けがにつながるおそれがあるため避けてください。
- 物を使ってフォームを確かめる。クッションや丸めたタオルなどを使い、腕の形やテンポ、押した後に力を抜く感覚を確かめる程度にとどめます。
- リズムに合わせる。一定のテンポの音に合わせて押すと、速さの感覚をつかみやすくなります。
- 動きを撮って見返す。スマホで自分の姿を撮影して見返すと、肘の曲がりや姿勢の崩れに気づきやすくなります。
一人での練習では、深さを正確に確かめることは難しいため、深さの感覚は救命講習で訓練用の人形を使って身につけるのがおすすめです。
AIで動きを見てもらう練習
一人で練習するときや、指導者が少ない訓練の場では、「自分の押し方が合っているか」を確かめる手段が限られます。そうした場面で、カメラの映像からAIが体の動きを読み取り、テンポや腕の形をその場で知らせてくれる練習用のツールを使う方法もあります。
こうしたツールは、指導者の目の代わりにすべてを判断するものではありませんが、「速すぎた」「肘が曲がっていた」といった気づきを、練習のたびに得られるのが利点です。救命講習で学んだことをくり返し確認する手段の一つとして、自分たちの訓練の目的に合うかどうかを考えて取り入れるとよいでしょう。
よくある質問
- 胸骨圧迫の練習は、救命講習を受けなくても意味がありますか?
- テンポや腕の形に慣れておくことは、講習の内容を身につける助けになります。ただし、心肺蘇生の正式な手順やAEDの使い方は、消防署や日本赤十字社などの救命講習で、指導者のもとで学んでください。自主練習は講習の代わりではなく、講習で学んだことを忘れないための補いと考えるのがおすすめです。
- 家で胸骨圧迫を練習するとき、人や家族の体で試してもいいですか?
- 人の体で実際に押す練習はしないでください。けがにつながるおそれがあります。自宅では、クッションや丸めたタオルなどの物を使い、テンポや腕の形、押した後に力を抜く感覚を確かめる程度にとどめましょう。
- 練習で目安にするテンポと深さはどれくらいですか?
- 日本蘇生協議会のJRC蘇生ガイドラインでは、テンポは1分間に100〜120回、深さは約5cmが目安とされています。押した後は胸が元の高さに戻るまで力を抜くことも大切です。具体的な押し方は、救命講習で指導者に確認してください。
- 職場の防災訓練で、胸骨圧迫の練習時間が短いときはどうすればいいですか?
- 一度にすべてを身につけようとせず、テンポ、腕の形、戻しなど、回ごとに意識する点を一つに絞ると練習しやすくなります。年に一度の訓練だけでなく、短い練習を間隔を空けてくり返す機会をつくることも、覚えた感覚を保つ助けになります。